夏休み、謎の微熱と謎の昔なばし

今週のお題「おじいちゃん・おばあちゃん」

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13歳の夏。

まだ大人の言うことを素直に聞いてた頃の話。

世の中はロス・オリンピックに浮かれ、

僕は夏風邪にうなされていた。

37.4度の微熱がっずっと下がらない。

カラダが弱いので、1週間くらいは気にならなかったが、

2週間を過ぎると大人たちがざわつき始めた。

いつも行く医者に連れていかれる。

医者は「よくわからないが2週間その微熱が続くのはおかしいから、

日赤で診てもらいなさい」と言う。

日赤とは僕の街で一番大きな病院である。

しかし、その大病院の医師も首を傾げていた。

一応、血液を採られ、脳のレントゲンを撮った。

そして、また1週間後に来てください。と言われる。

 

何か悪い病気ではないかと、

我が家に緊張が走る。

大人たちはもちろんフツーを装っていたが、

父は「大丈夫だよ、そんな顔するなナカムラさん」

と僕を名字で呼び、さらに、さんをつけていた。

母は、夕飯できたよ!と家族を呼ぶが

食卓には、野菜サラダとポテトサラダが並んでいるだけ。

炊飯器に電気を入れ忘れご飯は炊けていなかった。

 

とんでもない病気かもしれないと言う不安に

大人たちの不安が覆い被さり、

神経質な僕は孤独に潰されそうだった。

 

検査結果が出るまでは地獄で、

いつも6畳の布団しかない部屋にカーテンを締め切りで

寝ているのだけど。そこは出口のないトンネルのようだった。

 

ある日の昼間、そのトンネルにお婆ちゃんが来てくれた。

お婆ちゃんは僕の枕元に正座をすると、

病人の部屋の独特な匂いを吸い込み、

それを溜息のように吐き出してから話し始める。

 

「あのね、お婆ちゃんが、そうだね4歳くらいだったかな?

冬の寒い日だったね。今みたいにさ、街灯がないときだから、

夜空にキラキラの星がギッシリと散らばっていたんだよね。

それがとても綺麗で、ずーっとみていたんだよ。

お婆ちゃんの顔が物欲しそうだったのか、

お兄ちゃんたちが、よーしって言って

屋根に登って行ったんだよ。

そしてさ、トメ(お婆ちゃん)は何個欲しい?って聞いてくるの。

お婆ちゃんは屋根を見上げて1個でいいよって言ったの。

お兄ちゃんたちは、わかった待ってろよって言って、

物干し竿を夜空に向かって突くの。エイや!エイや!って

何度も何度も。でも、何も落ちてこなくてね。

お兄ちゃんたちは

肩車したらどうだ?とか竿を紐で縛ってつなげたらどうだ?

とか話してるんだけど、お父さんに見つかって、

家を潰す気か!ってすごく怒られてた。」

 

そこまで話すとお婆ちゃんはフフフと笑い、僕の顔を覗き込んだ。

僕もなんだか素敵な話だったのでニコッと笑いかえす。

するとお婆ちゃんの顔はくしゃくしゃになって、それを僕に見せまいと

顔を手で覆う「ご、ごめんね」と言い残すと

部屋から出て行った。

 

え?なんで?なんで?

僕は取り乱す。

何かが確定した感じがした。

 

でも大人たちに、確認する勇気はなかった。

 

検査結果が出る日、僕は世界の終わりのような顔をして

父親と日赤に行く。

医師は、やはり首を傾げ

「とりあえず、体温計を変えてみたら?」

と言った。