本当にあった恐怖?体験2〜ところどころウソ〜

 
 

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8月の快晴の日、
僕は半パンTシャツでリュックを背をって
江の電に揺られていた。
ドア付近で窓の外を眺めながらいると
「あの、おにぎりいかがですか?」と声をかけられた。
振り返ると優しそうなおばあちゃんがクシャクシャな笑顔でおにぎりを
差し出している。
僕は少しだけ申し訳ない気持ちになりながら
「い、いまはお腹がい、い、いっぱいなんだなぁ」と答え、
隣の車両に移った。

七里ケ浜で下車する。
僕はあのおばあさんの頭がおかしいのか、僕のこの風貌があまりにも
似過ぎていたのか想いを巡らせた。
ど、ど、どっちなんだろうなぁ。

そんなことを考えながら無人の改札を抜けようとしたら
後方から声をかけられた
「あの、スイマセン」
誰のことを呼んだのか分からなかったけれど
とりあえず振り返ってみた。

そこには、夏の湘南には少し不釣り合いなほどの
清楚な服装の人妻風の美しい女性が立っていた。

そしてゆっくりとその美人妻が僕の方へ歩み寄ってきて
「山岡さんではないですか?」と緊張気味に話しかけてくる。
山下さんとか、芦屋雁之助さんとか、塚地さんとか
ではないことに安心したけれど、残念ながら僕は山岡ではなかった。

人生40数年の中で、これほどまでに、自分が山岡ではないことを
悔やんだことはなかった。

しかし、しかしだ、美人妻は山岡という人の顔を知らないのだ。
ひょ、ひょっとしたら、浮気願望かなんかあって出会い系サイトかなんかで
山岡という男とここで待ち合わせしているのではないだろうか?
だったら、山岡になって話を合わせればいいのではないだろうか?
などと不純な僕の脳は一瞬で下世話な妄想を広げはじめる。
だけど、僕の貧困な、想像力は喫茶店でお茶を飲んでいる場面で
限界に達した。その間0.5秒。そして、0.5秒後に僕の残念な脳は、
決断をし、言葉を伝達する。

「いえ、違います。」

美人妻はすまなそうな顔をし「すいませんでした」と頭を下げた。

僕は泣きながら改札を出ようとする。

その瞬間、「あ、どうも」という男の声に「あ、山岡さんですか?」と
美人妻の声が被さる。

僕は足を止め振り返る。

美人妻の前には、太っちょなオッサンが立っていた。
そしてその太っちょなオッサンは、青の少し汚れたツナギに右手には
工具ボックス、そして左には脚立を抱えていた。

太っちょのオッサンは、美人妻に何か紙を手渡した。

そこには、見積書と書かれてあった。

僕は思わず「えーーー」と口に出してしまった。

このオバはんは(美人妻から降格しました)、いったい何をどうやって間違えて

僕に声をかけてきたんだ!
どー考えても、太っちょのオッサンは工事業者の人ではないか!
ありえない、ありえません。

まぁ、太っちょでオッサンというところは合っているのだけれど。
 
 
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